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『盲導犬の物語〜アイメイトは対等なパートナー〜』 第3回【アイメイトの一生】

『盲導犬の物語〜アイメイトは対等なパートナー〜』 は、アイメイト後援会員で、「アイメイト・サポートカレンダー」の撮影をしているフォトジャーナリストの内村コースケが、『WAN』(緑書房)で2015年7月号より連載中のアイメイトを中心とした盲導犬事情を解説する連載記事です。視覚障害者の方が紙媒体の記事を直接読むのは困難だという事情を考慮し、緑書房様の了承を得て、随時こちらにも同様の内容を掲載しております。

※レイアウトは本ブログ独自のものです。
※雑誌掲載時と記事の内容が細部で異なる場合があります。
※記事・写真の無断転載は固くお断りします。


第3回【アイメイトの一生】

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5つのステージで異なる家族と過ごす

 初めから宣伝で恐縮ですが、アイメイトのチャリティグッズに『アイメイト・サポートカレンダー』があります。2010年版から続いていて、2016年版が販売中です。制作費を除いた売上は、「(公財)アイメイト協会」に寄付されます。私はこのカレンダーの写真と各月の解説文、巻末の解説記事の制作を担当させていただいています。テーマは「アイメイトの一生」。12ヶ月分の写真と解説文により、「繁殖」「飼育」「訓練・歩行指導」「現役」「リタイア」という5つのステージと、「アイメイトには向かない道」を紹介しています。

 それぞれのステージでは、各奉仕者(ボランティア)、協会の歩行指導員、使用者と、犬の「主人」が変わります。そのため、アイメイト協会という「実家」から巣立ったアイメイトは、それぞれの家族と良好な関係を築いていく必要があるのです。これが、環境の変化に比較的柔軟で、幅広いコミュニケーション能力が高いとされるラブラドール・レトリーバーが、アイメイトの犬種に選ばれている理由の一つです。

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子犬時代を支える「繁殖奉仕」「飼育奉仕

 アイメイト候補犬を産む母犬と父犬は「繁殖犬」と呼ばれています。協会が特に素質の優れた犬たちを繁殖犬に選び、適切な繁殖計画に基いて交配することで、アイメイトの血統が守られています。

 繁殖犬は、オス・メスそれぞれ別々の「繁殖奉仕」家庭で預かっています。ふだんは一般的な家庭犬と同じように過ごし、交配、出産に備えます。一度に生まれる子犬は数頭から十数頭。母犬を預かる繁殖奉仕者は、出産と生後2ヶ月までの子犬たちの世話をサポートします。

 子犬は繁殖奉仕家庭にいる間、母犬・兄弟姉妹と仲良く過ごし、犬同士のコミュニケーションを自然に学んでいきます。奉仕家庭の環境によっては、庭で元気に駆けまわる子犬たちの姿も見られます。犬同士の社会で適度な距離感を保つ能力も、アイメイトにとっては不可欠な要素です。

 生後2ヶ月が過ぎると、子犬たちは1頭ずつ別々に「飼育奉仕」というボランティア家庭に引き継がれます。ここで過ごす約1年間は、やんちゃ盛りの時期です。預かる奉仕者は大変ですが、その半面、一番活発な時期をともに過ごせるのは役得だと考える人も多いようです。できるだけまっさらな状態で後の訓練に入りたいという考えから、この時期には特別なしつけをせず、のびのびと過ごさせるよう、アイメイト協会では指導しています。

 ある飼育奉仕の方は、ペットロスになっていた時に、「絶対に死に別れがない犬がいるよ」と、心配したご家族にアイメイトの飼育奉仕を勧められたと私に話してくれました。一方、1年での「生き別れ」は、とても辛いという声も聞かれます。それだけに、各奉仕家庭は、精一杯の愛情を候補犬に注いでいます。

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「訓練」「歩行指導」を経てアイメイトに

 アイメイト協会では、現場スタッフを犬の「訓練士」ではなく、「歩行指導員」と呼んでいます。アイメイトの育成において、犬の訓練はとても重要な要素ですが、協会の目的は視覚障害者の自立支援であり、その本分は人間教育であるという考え方から、人に対するアイメイト歩行の指導に重点を置いた呼び名を用いているのです。

 成犬になった候補犬たちは、飼育奉仕家庭から「実家」であるアイメイト協会に戻り、担当の歩行指導員と1対1でアイメイトしての訓練を受けます。「スィット(お座り)」「ダウン(伏せ)」「ウエイト(待て)」などの基礎訓練に始まり、実際に町に出てハーネスをつけて「ゴー」「ストレート」「ライト」「レフト」などの指示に従って歩いたり、路上の障害物を自発的に避ける訓練が行われます。

 訓練を終えると、いよいよアイメイトを希望する視覚障害者に実際に引き渡され、歩行指導が行われます。人と犬のマッチングは、体格や歩く速さ、性格などを見て協会が決めます。歩行指導は協会の施設に泊まりこむ合宿方式で4週間行われます。2頭目、3頭目のベテラン使用者も、アイメイト初心者と同じ扱いを受け、一からパートナーとの信頼関係を育みます。どんなにアイメイト歩行に慣れていても、犬にはそれぞれ個性があり、それを尊重しなければ安全なアイメイト歩行はできません。そのため、新しい犬を迎える際には、誰もが一から歩行指導を受けるのです。ここが、自動車の運転免許などとは異なります。

 歩行指導の最後には、2回の卒業試験に相当するものがあります。一つは、東京のJR吉祥寺駅から電車に乗って銀座へ行き、決められたコースを歩く伝統の「銀座歩行テスト」。さらにその翌日に、「幻のコース」と呼ばれる非公開のコースをぶっつけ本番で歩く最終テストがあります。これをクリアすれば「卒業」となり、そのままアイメイトと共に帰宅することができます。

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家庭犬としては申し分のない「不適格犬」

 訓練期間中に、アイメイトには向かないと判断される犬もいます。これらの犬は「不適格犬」と呼ばれ、視覚障害者にマッチングされることなくボランティアに引き渡され、家庭犬として一生を送ります。「盲導犬になれる犬は一握り」という誤解が一部にあるようですが、少なくともアイメイト協会では、7割から8割程度がアイメイトになっています。残りの2〜3割が不適格犬ということになります。

 その理由はさまざまですが、「乗り物酔いしやすい」「他の犬や動物への関心がやや強い」など、家庭犬としては大きな問題にならないようなものがほとんどです。視覚障害者と常に行動を共にし、命を預かるアイメイトだからこそ、基準は相当に厳しいと言えるでしょう。私が実際に会った不適格犬はいずれも、家庭犬としては申し分のない、いわゆる「いい子」ばかりです。

 「不適格犬」の呼び名は、20年ほど前から使われていますが、よく「存在を否定するようでかわいそうだ」という意見が寄せられるといいます。アイメイト協会ではこれについて、「犬には愛情と誠意を持って接するということが大前提にあります。あくまでも視覚障害者の目となるアイメイトとしては不適格であることと、個体の犬自体を否定することとはまったく違います」とコメントしています。安易な言葉の言い換えは、物事の本質をぼやけさせる側面もあるのではないでしょうか?

 現役のアイメイトの活躍については、別の回で詳しく書かせていただこうと思いますが、 アイメイトは、一般的には7〜10歳くらいまで使用者のもとで働きます。引退後は、「リタイア犬奉仕」のボランティアに引き渡されて老後を過ごします。経験豊富なリタイア犬は、とても穏やかで優しい犬ばかりです。私が会ったリタイア犬たちは、奉仕家庭の小さなお子さんたちとも、とても仲の良い様子を見せてくれました。引退してもなお、人に無償の愛を注いでくれるアイメイトは、まさに天使のような存在だと私は思います。
 
「繁殖奉仕」「飼育奉仕」「リタイア犬奉仕」「不適格犬奉仕」にご興味がある方は、アイメイト事業を支援するボランティア団体『アイメイト後援会』のHPをご覧ください。

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