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2016年10月23日に開催された「アイメイト・デー」は、アイメイト使用者とアイメイト協会スタッフ、支援者らが一堂に会する年1回のイベントです。節目の第40回となった今年は、東京・竹橋の会場に44組の使用者・アイメイトのペアを含む計約280名が集まりました。来賓の挨拶、使用者・支援者・協会スタッフのスピーチと、アトラクションなどがありました。(投稿・内村コースケ)

今年は、就任したばかりの小池百合子東京都知事も駆けつけました。小池知事は、先の盲導犬使用者の地下鉄駅ホーム転落死亡事故について触れ、都営地下鉄などでホームドアの設置を進めていくと力強く宣言していました。同時に、問題はそれだけでは解決しないという認識を示していました。

これまでに重大事故を起こしていないアイメイト協会では、一部の盲導犬育成団体で間違った訓練(ハーネスをケース・バイ・ケースで左右持ち替えること。アイメイト協会では左手のみで持つように教えている)が行われており、それが事故の主要因となった可能性を指摘し、その問題から目を逸らしてはならないと問題提起しています。この件については、都議会で質問に上がっています。小池知事の後に登壇した塩村あやか都議会議員は、あいさつの中で、この件についても触れていました。

ホーム転落事故の事故原因に関するアイメイト協会・塩屋隆男代表理事の見解については、下のリンクの記事で詳しく書いていますので、拙文ですが、人の命と自由という人権の根幹に関わる問題ですので、是非、ご一読いただければと思います。


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開会前には、アイメイト後援会員も会場前で来場者のご案内や受付などをさせていただきました。正しいアイメイト歩行は、視覚に障害を持つ方に歩行の自由と安全を保証するものです。後援会員はそのことをよく分かっていますので、会場案内係も、手取り足取り駅から会場まで「誘導」するわけではありません。基本的には晴眼者に対する案内と同様に、会場の入り口はどこにあるのか、建物内のどこの階段を使うのか、といった現地に来てみなければ分からないような細かな道順をご案内します。

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「アイメイト・デー」の会場になったのは、一般的な民間のホールです。身体障害者補助犬法により、アイメイトをはじめとする補助犬は、ホールなどの公共施設に入場する権利があります。アイメイトは使用者の目となる「体の一部」であり、アイメイトの入場を拒否することは、使用者自身の入場を拒否するのと同じだという見解のもと、同法は定められています。もちろん、使用者とアイメイトの方も、一定のマナーを守るのは当然です。たとえば、アイメイトは、使用者の指示がない限り勝手に排泄しないように訓練されていますが、「アイメイト・デー」では毎回、指定の場所で「ワン・ツー」(排泄)を済ませてから入場します。もちろん、使用後は、協会スタッフらがきれいにワン・ツー場所を掃除します。

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会の冒頭で登壇した小池知事には、訓練中のアイメイトと共に入場してもらいました。一挙手一投足が注目される話題の新知事なだけに、テレビ局などマスメディアの取材も多く入りました。祝辞の中で語られた2020年はパラリンピックを重視する、東京から電柱を一掃するといった発言がピックアップされて報じられました。当日は衆議院の補欠選挙の投開票日でしたが、スケジュールの合間を縫って、知事自らの強い希望で「アイメイト・デー」に出席したとのことです。

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小池知事に続いて、来賓の都議会議員、国会議員の方々の挨拶がありました。60年に及ぶアイメイトの歴史の中では、多くの議員の皆様に「視覚障害者の自立をお手伝いする」というアイメイト事業の本分をご理解いただき、法整備等に尽力いただいています。

アイメイトはこうした席では、使用者の足元に伏せ、寝たりうとうとしたりと、静かにしています。

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続いてアイメイト協会・塩屋隆男代表理事が挨拶し、協会スタッフの紹介がありました。アイメイト協会の歴史は、前理事長の塩屋賢一が、国産盲導犬第1号の「チャンピイ」と盲学校教師の河相洌(かわい・きよし)さんのペアを送り出した1957年に遡ります。その後、盲導犬育成のパイオニアとして次々とペアを育て、1967年には「日本盲導犬協会」を設立しました。この団体は現在も存続していますが、塩屋賢一は、「視覚障害者の自立をお手伝いをする」という本分を貫くため、過分な利益を得ることばかりに注力する当時の理事らと袂を分かち、自ら設立した日本盲導犬協会とは1970年に訣別しています。そして、翌1971年に新たに「東京盲導犬協会」を設立しました。「盲人を導く犬」という誤った認識を与える「盲導犬」に代わる「アイメイト」の呼称は、この頃から使っています。第1回「アイメイト・デー」が開催されたのも、1972年のことです。1989年に現在の「アイメイト協会」に名称変更し、現在に至ります。

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来年2017年は、河相さんとチャンピイが羽ばたいた1957年から数えて、アイメイト60周年に当たります。アイメイト協会では、さまざまな60周年記念事業を計画していますが、この日は、『アイメイト60周年スペシャルサイト』の開設が案内されました。アイメイト60年の歴史や、塩屋賢一の歩み、使用者のインタビューといったコンテンツが順次展開されます。



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会場では、その後、出席した使用者の自己紹介やアイメイト後援会のチャリティ・グッズの販売等が行われました。

そして、休憩を挟んで現役使用者、繁殖奉仕者、飼育奉仕者、リタイア犬奉仕者、アイメイト後援会員、歩行指導員のスピーチがありました。アイメイトに対する強い愛情が、それぞれの立場からユーモアを交えて語られました。繁殖奉仕とは、繁殖犬(母犬または父犬)を預かり、出産や育児を手伝うボランティアです。子犬たちは生後2ヶ月を過ぎるとそれぞれ飼育奉仕者に引き渡され、1年間を過ごした後、協会に戻って歩行指導員の訓練を受けます。ちなみに、アイメイト協会で犬の訓練を行うのは、「訓練士」ではなく、「歩行指導員」です。アイメイト歩行は人と犬との共同作業であり、犬の訓練のみでは完結しません。指導員の業務は多岐に渡りますが、最も重要なのは、人と犬のペアに対する「歩行指導」です。塩屋賢一は常々、「人が主役、犬は名脇役」と語っていました。

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アトラクションは、芸人の立川真司さんによる鉄道のモノマネ。アイメイト使用者は鉄道をよく利用される方が多く、ホームの放送など鉄道関連の「音」を再現する立川さんの芸は特にウケたようです。最後に後援会によるスピードくじの抽選会があり、「アイメイト・デー」はにぎやかなうちに幕を閉じました。来年の「アイメイト・デー」は、アイメイト60周年記念大会となります。

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# by eymategoods | 2016-10-25 17:30 | イベント
2017年版の「アイメイト・サポートカレンダー」が、10月1日からアイメイトサポートグッズ・オンラインショップで販売中です。当ブログでは、全ページの内容に加えて、未使用カット、撮影秘話も余すところなく紹介致します。(撮影担当・内村コースケ)

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2017年版には、例年と違うスペシャルな所が一つあります。上の表紙の画像の右下に注目してください。「60」をかたどった「EYEMATE 60YERS Since1957」のロゴマークがありますね。来年2017年は、国産盲導犬第1号「チャンピイ」と使用者の河相 洌(きよし)さんが卒業した1957年から数えて60周年にあたります。アイメイト協会は、チャンピイを育てた塩屋賢一直系の唯一無二の育成団体です。日本の盲導犬の歴史はチャンピイと共に1957年に始まりましたが、ここから一本の道で現在までつながっていて、2017年に60周年を祝えるのはアイメイト協会だけです。来年は、このロゴマークがあちこちで見られると思いますが、『2017 アイメイト・サポートカレンダー』が、いち早く最初に使用しました。

アイメイト・サポートカレンダーの目的は、売上の寄付とともに、アイメイトを正しく理解してもらうための啓発にあります。そのため、表紙や毎月の写真に加えて、巻末に見開きの特集ページを設けて、毎年違ったテーマでアイメイトやアイメイトにまつわることを解説しています。今回は、【アイメイト60周年 『チャンピイ』から「アイメイト」へ】と題して、ズバリ1957年の河相さんとチャンピイの歩行指導のお話や、現在までのアイメイトの歩みについて書いています。

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さて、表紙は例年アイメイト候補の子犬の写真を採用していますが、今年は同じ繁殖犬から生まれた兄弟姉妹の集合写真です。これは私のこだわりなのですが、子犬を並べて撮る場合でも、学校の集合写真のように全員が正面を向いて行儀よく座っているのではなく、1頭1頭の個性が伺えるような、少し崩れた瞬間を狙っています。他に以下のような候補も検討しました。

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カレンダーの写真ですから、季節感も大切です。年間を通じて行われる撮影は毎年秋の紅葉シーズンに始まります。2017年版の場合は、2015年の秋の紅葉ということになります。この年の紅葉は遅く、東京では師走の足音が聞こえてきてもなかなか色づきませんでした。このイチョウ並木での飼育奉仕の写真は11月22日の撮影ですが、当初予定していた都心近くの公園のイチョウやモミジはまだ青々としていたため、急遽郊外の公園にロケ地を変更して撮影したものです。

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未使用候補写真

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この時の写真では、カレンダーと同じ「アイメイト・サポートグッズ」のクリアファイルとミニレターも作りました。

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母犬を預かり、出産と生後2ヶ月までの子育てを手伝う繁殖奉仕。子犬たちのかわいさについ目を奪われがちですが、母犬と奉仕家庭の皆さんの寝る間を惜しんでの献身を忘れてはなりません。

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12月は年の瀬の繁華街を歩く現役使用者と奥様です。

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他の盲導犬育成団体と違い、アイメイト協会では安全なアイメイト歩行に対する責任から、全盲の方のみを歩行指導に受け入れています。視覚障害といっても、一切の光を感じない方から、視野の中心のみ見える方、逆に中心がぼやけてしまうケースまで、障害の形態・度合いはさまざまです。アイメイト協会では、若干の視力に頼りがちになってしまうとかえって危険だという考え方から、残存視力の度合いによっては歩行指導をお断りする場合があります。この方針が安全につながっていることは、これまでにアイメイトの重大事故は一例もないことが証明しています。今回ご登場いただいたご夫婦だけでなく、5年前の『アイメイト 55周年記念誌』の現役使用者インタビューに応えていただいた下の写真のご夫婦もそうですが、アイメイト使用者のご主人に弱視や白杖使用の奥様が従って歩く姿は、アイメイト歩行の安全性・確実性・自由度を知っていれば決して驚くようなことではありません。つまり、その人がどれだけ「見えているか」は、視力だけでは量れないということです。

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雪の撮影も今回は苦労しました。前年の記録的な大雪と打って変わって、2016年の年明けはどこも雪不足。1月の採用作は、標高2000mまで上がってようやく見つけたまとまった雪のある山中の雪原です。未使用カットのスキー場での様子は、かろうじて人工雪があるという状況でした。

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2月になるとまとまった雪が降った地方もあり、雪景色の撮影も無理なくできるようになりました。真冬や逆に暑い季節の子犬の野外での撮影は、体調を考慮してなるべく手早く、繁殖奉仕家庭の敷地内で行う必要があります。四季折々の表情豊かな自然の中にあるこちらのお宅には毎年お世話になっていますが、その理由の一つは、安全な環境下で撮影できるという点です。

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梅園での撮影は今回が初めてです。16歳のご長寿の不適格犬です。アイメイトは総じて、平均的なラブラドール・レトリーバーに比べて長生きする傾向にあります。アイメイトには向かないと判断され、通常1〜2歳で家庭犬として奉仕家庭に引き取られる不適格犬も、同じ血筋を引き、アイメイトと同じように大事にされますので、やはり長寿犬が多いようです。

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恒例の4月の桜は、今年は色の濃い寒桜を採用しました。子供とペットは、写真を撮る側としては“二大難しい被写体”なのですが、アイメイト(この犬の場合は不適格犬)は例外です。仲良く一緒に写ってくれた奉仕家庭のお孫さんも、とても上手にモデルをしてくれました。もちろん家庭犬でも当てはまることですが、小さいうちから動物と一緒に暮らしたり日常的に触れ合うことは、お子さんの成長のプラスになることでしょう。

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昨年から今年にかけては、アイメイトのリタイアについても色々と考えさせられることがありました。アイメイトの奉仕者の場合、リタイア犬=老犬が初めて一緒に暮らす犬だという人も少なくありません。命には限りがあるという現実と必ず向き合うことになるこの奉仕活動を進んで引き受けている人が少なからずいるということを、私たちはきちっと認識するべきだし、前向きに受け止めなければいけないと思います。そして、どうしてもまだカレンダーの写真として採用するには“時期尚早”と、候補に挙げて見送った写真もあります。写真は一目瞭然ですべてを伝えることができる素晴らしいメディアである反面、情緒的な誤った反応も引き起こしがちです。リタイアに対する認識に関しては、もっともっと社会全体の成長を期待したところです。

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雨の日に外を歩かせてかわいそうだと、街でアイメイトの訓練・歩行指導を見て言ってくる人がいまだにいるといいます。あなたの職場は、雨が降ったら休めるでしょうか?外出先で雨に遭ったら、移動をあきらめますか?アイメイトは「歩行の自由」を実現してくれる大切なパートナーです。「いつでも、でこへでも、好きな時に」出かけられるよう、60年の実績を受け継ぐプロの歩行指導員が、適切に、犬に最大限の敬意を払いながら、気候の変化にも柔軟に対応できるアイメイトへと育てているのです。当然、使用者の皆さんもそれを十分に理解して、日々パートナーと共に歩んでいるのです。

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アイメイトになるのは、ラブラドール・レトリーバーです(チャンピイの時代はジャーマン・シェパードでした)。もともと、ハンターが撃ち落とした水鳥などを水面からレトリーブ(回収)する仕事をしていた犬種ですから、元来は水遊びや泳ぐのが大好きです。でも、数多くのアイメイト、候補犬、不適格犬を見たりお話を聞いていると、中には「絶対に泳がない」とか「水に足を踏み入れたがらない」という犬もいます(先の雨の中を歩く歩かないの話とはまた別です。お仕事中とそうでない時のオン・オフの切り替えができるのがアイメイトです)。考えてみれば、陰気なイタリア人もいれば、私のようにぐうたらな日本人もたくさんいます。犬の場合も、犬種の特徴を超えた個性があるのが当たり前ですね。

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アイメイトの訓練は夏場も行われていますが、さすがに猛暑日が続く夏場は特に、時間帯や場所に十分に配慮しています。屋外に出るのは早朝や夕方にとどめたり、ふだんの市街地を避けて緑の多い大きな公園に出かけたりします。人間の場合も、最近は真夏の炎天下で常軌を逸したような運動をさせて水も飲むなというような根性主義は減ってきましたね。当然のことですが、アイメイトの訓練は昔から、十分に犬たちの体調に注意しながら行われています。

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人が犬や猫、動物に癒やされるのは、その純真さゆえでしょう。動物の純粋無垢な目は、人の純心を引き出します。動物の純真さ、人の純心が弄ばれることのない世の中になってほしいものです。

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『盲導犬の物語〜アイメイトは対等なパートナー〜』 は、アイメイト後援会員で、「アイメイト・サポートカレンダー」の撮影をしているフォトジャーナリストの内村コースケが、『WAN』(緑書房)で2015年7月号より連載中のアイメイトを中心とした盲導犬事情を解説する連載記事です。視覚障害者の方が紙媒体の記事を直接読むのは困難だという事情を考慮し、緑書房様の了承を得て、随時こちらにも同様の内容を掲載しております。

※レイアウトは本ブログ独自のものです。
※雑誌掲載時と記事の内容が細部で異なる場合があります。
※記事・写真の無断転載は固くお断りします。


第3回【アイメイトの一生】

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5つのステージで異なる家族と過ごす

 初めから宣伝で恐縮ですが、アイメイトのチャリティグッズに『アイメイト・サポートカレンダー』があります。2010年版から続いていて、2016年版が販売中です。制作費を除いた売上は、「(公財)アイメイト協会」に寄付されます。私はこのカレンダーの写真と各月の解説文、巻末の解説記事の制作を担当させていただいています。テーマは「アイメイトの一生」。12ヶ月分の写真と解説文により、「繁殖」「飼育」「訓練・歩行指導」「現役」「リタイア」という5つのステージと、「アイメイトには向かない道」を紹介しています。

 それぞれのステージでは、各奉仕者(ボランティア)、協会の歩行指導員、使用者と、犬の「主人」が変わります。そのため、アイメイト協会という「実家」から巣立ったアイメイトは、それぞれの家族と良好な関係を築いていく必要があるのです。これが、環境の変化に比較的柔軟で、幅広いコミュニケーション能力が高いとされるラブラドール・レトリーバーが、アイメイトの犬種に選ばれている理由の一つです。

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子犬時代を支える「繁殖奉仕」「飼育奉仕

 アイメイト候補犬を産む母犬と父犬は「繁殖犬」と呼ばれています。協会が特に素質の優れた犬たちを繁殖犬に選び、適切な繁殖計画に基いて交配することで、アイメイトの血統が守られています。

 繁殖犬は、オス・メスそれぞれ別々の「繁殖奉仕」家庭で預かっています。ふだんは一般的な家庭犬と同じように過ごし、交配、出産に備えます。一度に生まれる子犬は数頭から十数頭。母犬を預かる繁殖奉仕者は、出産と生後2ヶ月までの子犬たちの世話をサポートします。

 子犬は繁殖奉仕家庭にいる間、母犬・兄弟姉妹と仲良く過ごし、犬同士のコミュニケーションを自然に学んでいきます。奉仕家庭の環境によっては、庭で元気に駆けまわる子犬たちの姿も見られます。犬同士の社会で適度な距離感を保つ能力も、アイメイトにとっては不可欠な要素です。

 生後2ヶ月が過ぎると、子犬たちは1頭ずつ別々に「飼育奉仕」というボランティア家庭に引き継がれます。ここで過ごす約1年間は、やんちゃ盛りの時期です。預かる奉仕者は大変ですが、その半面、一番活発な時期をともに過ごせるのは役得だと考える人も多いようです。できるだけまっさらな状態で後の訓練に入りたいという考えから、この時期には特別なしつけをせず、のびのびと過ごさせるよう、アイメイト協会では指導しています。

 ある飼育奉仕の方は、ペットロスになっていた時に、「絶対に死に別れがない犬がいるよ」と、心配したご家族にアイメイトの飼育奉仕を勧められたと私に話してくれました。一方、1年での「生き別れ」は、とても辛いという声も聞かれます。それだけに、各奉仕家庭は、精一杯の愛情を候補犬に注いでいます。

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「訓練」「歩行指導」を経てアイメイトに

 アイメイト協会では、現場スタッフを犬の「訓練士」ではなく、「歩行指導員」と呼んでいます。アイメイトの育成において、犬の訓練はとても重要な要素ですが、協会の目的は視覚障害者の自立支援であり、その本分は人間教育であるという考え方から、人に対するアイメイト歩行の指導に重点を置いた呼び名を用いているのです。

 成犬になった候補犬たちは、飼育奉仕家庭から「実家」であるアイメイト協会に戻り、担当の歩行指導員と1対1でアイメイトしての訓練を受けます。「スィット(お座り)」「ダウン(伏せ)」「ウエイト(待て)」などの基礎訓練に始まり、実際に町に出てハーネスをつけて「ゴー」「ストレート」「ライト」「レフト」などの指示に従って歩いたり、路上の障害物を自発的に避ける訓練が行われます。

 訓練を終えると、いよいよアイメイトを希望する視覚障害者に実際に引き渡され、歩行指導が行われます。人と犬のマッチングは、体格や歩く速さ、性格などを見て協会が決めます。歩行指導は協会の施設に泊まりこむ合宿方式で4週間行われます。2頭目、3頭目のベテラン使用者も、アイメイト初心者と同じ扱いを受け、一からパートナーとの信頼関係を育みます。どんなにアイメイト歩行に慣れていても、犬にはそれぞれ個性があり、それを尊重しなければ安全なアイメイト歩行はできません。そのため、新しい犬を迎える際には、誰もが一から歩行指導を受けるのです。ここが、自動車の運転免許などとは異なります。

 歩行指導の最後には、2回の卒業試験に相当するものがあります。一つは、東京のJR吉祥寺駅から電車に乗って銀座へ行き、決められたコースを歩く伝統の「銀座歩行テスト」。さらにその翌日に、「幻のコース」と呼ばれる非公開のコースをぶっつけ本番で歩く最終テストがあります。これをクリアすれば「卒業」となり、そのままアイメイトと共に帰宅することができます。

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家庭犬としては申し分のない「不適格犬」

 訓練期間中に、アイメイトには向かないと判断される犬もいます。これらの犬は「不適格犬」と呼ばれ、視覚障害者にマッチングされることなくボランティアに引き渡され、家庭犬として一生を送ります。「盲導犬になれる犬は一握り」という誤解が一部にあるようですが、少なくともアイメイト協会では、7割から8割程度がアイメイトになっています。残りの2〜3割が不適格犬ということになります。

 その理由はさまざまですが、「乗り物酔いしやすい」「他の犬や動物への関心がやや強い」など、家庭犬としては大きな問題にならないようなものがほとんどです。視覚障害者と常に行動を共にし、命を預かるアイメイトだからこそ、基準は相当に厳しいと言えるでしょう。私が実際に会った不適格犬はいずれも、家庭犬としては申し分のない、いわゆる「いい子」ばかりです。

 「不適格犬」の呼び名は、20年ほど前から使われていますが、よく「存在を否定するようでかわいそうだ」という意見が寄せられるといいます。アイメイト協会ではこれについて、「犬には愛情と誠意を持って接するということが大前提にあります。あくまでも視覚障害者の目となるアイメイトとしては不適格であることと、個体の犬自体を否定することとはまったく違います」とコメントしています。安易な言葉の言い換えは、物事の本質をぼやけさせる側面もあるのではないでしょうか?

 現役のアイメイトの活躍については、別の回で詳しく書かせていただこうと思いますが、 アイメイトは、一般的には7〜10歳くらいまで使用者のもとで働きます。引退後は、「リタイア犬奉仕」のボランティアに引き渡されて老後を過ごします。経験豊富なリタイア犬は、とても穏やかで優しい犬ばかりです。私が会ったリタイア犬たちは、奉仕家庭の小さなお子さんたちとも、とても仲の良い様子を見せてくれました。引退してもなお、人に無償の愛を注いでくれるアイメイトは、まさに天使のような存在だと私は思います。
 
「繁殖奉仕」「飼育奉仕」「リタイア犬奉仕」「不適格犬奉仕」にご興味がある方は、アイメイト事業を支援するボランティア団体『アイメイト後援会』のHPをご覧ください。

『2016アイメイト・サポートカレンダー』は、以下のサイトにて注文ができます。
『アイメイトサポートグッズ・オンラインショップ』

『盲導犬の物語〜アイメイトは対等なパートナー〜』 は、アイメイト後援会員で、「アイメイト・サポートカレンダー」の撮影をしているフォトジャーナリストの内村コースケが、『WAN』(緑書房)で2015年7月号より連載中のアイメイトを中心とした盲導犬事情を解説する連載記事です。視覚障害者の方が紙媒体の記事を直接読むのは困難だという事情を考慮し、緑書房様の了承を得て、随時こちらにも同様の内容を掲載しております。

※レイアウトは本ブログ独自のものです。
※雑誌掲載時と記事の内容が細部で異なる場合があります。
※記事・写真の無断転載は固くお断りします。


【第2回】初の国産盲導犬使用者、河相洌さんに聞く

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(左)現役当時のチャンピイと、河相さん・玲子夫人(右)河相さんご夫妻(2012年6月)

失明を知らされても「どこかに出口はある」

第一回でも触れましたが、今につながる日本の盲導犬の歴史は、第二次世界大戦後間もなく、現在の「(公財)アイメイト協会」の創設者、故・塩屋賢一の手によって始まります。賢一は、終戦後すぐに手に入れたメスのジャーマン・シェパード『アスター』やその子の『バルド』、『ナナ』と目隠しをして生活しながら、盲導犬の育成法を完成させます。そして、1957年に初めて実際に視覚障害者のパートナーとして社会に巣立ったのが、『チャンピイ』(G・シェパード、♂)です。

その使用者の河相洌(きよし)さんは、外交官だった父の赴任先のカナダ・バンクーバーで生まれ、戦前・戦中は中国大陸で過ごしました。戦後、慶応義塾大学に進学しましたが、戦時中の重労働や心労がたたり、在学中に視力を完全に失ってしまいました。

「医者から見えなくなることを知らされた時、『これで自分の人生はおしまいだ』なんていうふうには全然思わなかった。『どこかに出口はある』と僕は考えた。落ち込む暇などなかったんですよ」と、現在87歳の河相さんは語ります。

治療に専念するために大学を中退していた河相さんでしたが、その「出口」を大学教育に求め、復学を決意。当時は視覚障害者が大学で学ぶという先例や社会通念はほとんどありませんでした。それでも、粘り強く交渉した結果、理解ある教授の後押しも得られ、文学部哲学科への復学を勝ち取たのです。

「読むこと、書くことは点字があり、このごろは様々な機器が発明され、ある程度解消されてきています。盲人にとって一番やっかいな問題は歩行です。当時は『杖一本で歩く』という方法しかなく、江戸時代と変わらなかったのです」

河相さんは次に、「歩行の自由」を得ることに自立の活路を見出しました。その手段として熱望したのが、子供の頃から海外で活躍していることを知っていて、憧れていた盲導犬だったのです。そのことを、父の河相達夫さんがあるパーティーで愛犬家の米軍大佐に話したところ、「この子を盲導犬にしたらどうか」と譲り受けた子犬が、ショーのチャンピオン犬の血筋を持つ『チャンピイ』でした。

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1957年当時の塩屋賢一(左)と河相さん、チャンピイ


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1957年夏、塩屋賢一(左端)の歩行指導を受ける河相さんとチャンピイ

「さようなら、チャンピイ。河相さんを頼んだぞ」

河相さんは、日本で一人だけ盲導犬を育てることができる人物がいるという噂を頼りに、塩屋賢一に面会。チャンピイの訓練を依頼します。そして、大学を卒業し、盲学校の教師になった1956年、1歳のチャンピイを賢一に預けました。当時の河相さんの赴任先は滋賀県彦根市。賢一は、東京・練馬で家庭犬の訓練所を営んでいました。その業務と併行して賢一はチャンピイと寝食を共にし、一年間かけて盲導犬としての訓練を施しました。

「その当時、学校の仕事が忙しくてなかなか東京の実家に帰れず、チャンピイにも会えませんでした。翌年の夏休みに訓練を終えたチャンピイに久しぶりに会うと、とにかく素晴らしい、こちらの命令一つによって完璧に動く犬になっていました」と 、河相さんは述懐します。そして、夏休みの帰省を利用して今度は河相さん自身がチャンピイと共に歩くための歩行指導を受け、1957年8月、「国産盲導犬第一号」のペアが誕生しました。

チャンピイと共に彦根に戻った河相さんは、毎日チャンピイと自宅から15分ほど歩いて学校に通いました。教壇にも一緒に並び、チャンピイはたちまち子どもたちの人気者になります。「杖一本で歩くのとは全くが違いました。『この子がいる限りは自分は大丈夫だ』という安心感があるのです。だから、歩くことが非常に楽しくなり、それまでのように外出が苦痛でなくなりました。チャンピイが来てからは、歩行がむしろ快適になったくらいでした」

河相さんは当初、チャンピイとの歩行や日々の生活の中で困ったことや疑問点があるとメモをして『チャンピイ通信』としてまとめ、賢一に送りました。それを見た賢一は、しばらくしてこっそり彦根に様子を見に行きます。通学路の木の影に隠れて待っていると、やがて二人がやってきました。チャンピイは育ての親がすぐそばにいることに気づきましたが、チラッと賢一の顔を見ただけでまっすぐ前を向いて歩き続けました。その姿を見て、賢一はチャンピイが独り立ちしたことを確信し、「さようなら、チャンピイ。河相さんを頼んだぞ」とつぶやいたといいます。

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滋賀県彦根市の盲学校で教壇に立つ河相さんとチャンピイ

河相さんと歩んだ4頭の犬たち

町をさっそうと歩き、盲学校の教壇に立つ河相さんとチャンピイの様子は、「日本初」とあって、新聞や雑誌の取材も多く受けました。賢一も二人の成功に力を得て、2頭目、3頭目と次々と盲導犬を世に送り出して行きました。

河相さんはその後、チャンピイとともに静岡県浜松市の盲学校へ転勤。チャンピイは12歳でフィラリアで亡くなる直前まで河相さんのパートナーとして活躍しました。その後、河相さんはチャンピイの子『ローザ』とペアを組みます。「盲導犬」が「アイメイト」となり、犬種がラブラドール・レトリーバーに切り替わった後も、『セリッサ』、『ロイド』と歩きました。河相さんにとって最後のアイメイトとなった『ロイド』は、2年前、引退したアイメイトを預かるリタイア犬奉仕家庭で16歳8ヶ月の長寿をまっとうしました。河相さんご自身は現在、奥様と2人、浜松市内の老人養護施設で暮らしています。

河相さんは今、歴代のパートナーについて、次のように語ります。

「二代目のローザは、チャンピイとプランダーという盲導犬の間の子です。プランダーというのはちょっと落ち着きのない犬で、僕はあまり買っていなかったのだけど、塩屋さんがチャンピイのお嫁さんに選びました。その子のローザは、盲導犬としての能力はチャンピイよりは落ちたかもしれませんが、仕事もできて、性格的には非常に可愛らしい犬でしたね」

「セリッサは、黒のラブラドール・レトリーバー。シェパードは盲導犬として非常に優秀でしたが、訓練する側に高い能力が求められる面もありました。そのため、盲導犬の普及と相まって、1970年代までに平均的に能力が高く性格も温和なラブに切り替わっていきました。僕の見方からすれば、ラブはシェパードに比べて遊び癖があるのですが、その当時から盲導犬と電車やバスに乗れるようになったこともあり、セリッサは4頭の中で一番仕事をしてくれました」

「ロイドは僕が職を退いて71歳の時に来た犬。体が大きく、頭が良くて穏やかな性格でした。四頭の中で一番のんき者というか、ちょっとしたことでは動じないワンちゃんでしたね。アイメイトとして非常に良い性格だったと思います」

そして、チャンピイについては次のように思いを語ります。

「みんなぞれぞれ個性がありますが、総合的な盲導犬としての能力を比べてみれば、やはりチャンピイが頭一つ抜けています。一言で言えば忠実。同時に、判断力、大胆さといった点でもチャンピイは群を抜いていた。自分で判断してこれと思ったら大胆に行動できる犬でしたし、忍耐力も高かった。もちろん、塩屋さんの訓練の成果なのですが、チャンピイのもともとの性格も大きかったと思います。その点で、日本の盲導犬の歴史にとって、チャンピイから始まったというのは大きな弾みになったと思います」

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国産盲導犬第一号ペアが巣立った1957年から半世紀後の2007年、再会した塩屋賢一(左)と河相さん、『ロイド』

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現役の歩行指導員の訪問を受け、当時のことや現在のアイメイト育成事業に対する思いを語る河相さん(2015年9月)

※WAN(緑書房) 2015年9月号掲載

盲導犬とこの連載について
●盲導犬は「盲人を導く賢い犬」ではなく、「視覚障害者との対等なパートナー」である
●日本には11の独立した盲導犬育成団体があり、それぞれ育成方針や盲導犬歩行の定義が異なる
●「アイメイト」は、(公財)アイメイト協会出身の盲導犬の独自の呼称。この連載はおもにアイメイトに絞って話を進める


内村コースケ
フォトジャーナリスト。新聞記者・同カメラマンを経てフリーに。「犬」や「動物と人間の絆」をメインテーマに、取材・撮影を行い、なかでも「アイメイト」の物語は重要なライフワーク

『盲導犬の物語〜アイメイトは対等なパートナー〜』 は、アイメイト後援会員で、「アイメイト・サポートカレンダー」の撮影をしているフォトジャーナリストの内村コースケが、『WAN』(緑書房)で2015年7月号より連載中のアイメイトを中心とした盲導犬事情を解説する連載記事です。視覚障害者の方が紙媒体の記事を直接読むのは困難だという事情を考慮し、緑書房様の了承を得て、随時こちらにも同様の内容を掲載しております。

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【第1回】 盲導犬について知っておいてほしいこと

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「盲導犬」は「盲人を導く犬」ではない

皆さんは「盲導犬」という言葉にどういうイメージを抱くでしょうか?字面をそのまま捉えれば、「盲人を導く犬」ということになります。世間一般の認識は、それに当たらずといえども遠からずだと思います。“日本の盲導犬の父”、故・塩屋賢一はこう言っています。
 
「『盲導犬』という言い方は、どうも違っている。利口な犬が盲人を導いているという印象を与えがちだが、そうではない」
 
実際の歩行では、広い意味で“何も見えていない”人を賢い犬が誘導しているわけではありません。使用者である視覚障害者は、行きたい場所までの道順を事前に覚え、頭の中に描いた地図をもとに、犬に「ゴー(出発)」「ストレート(直進)」「ライト(右)「レフト(左)」「ブリッジ(階段を探せ)」といった指示を与えて目的地まで歩きます。その際、犬は障害物を避けたり、道の分岐や段差で止まるなどして歩行をサポートします。急な車の飛び出しがあった時などには、指示に背いてでも止まったり後ずさりする自発的な判断も要求されます。

だから、犬が主体となって人を導いているわけでも、人の命令に犬がロボットのように絶対服従しているのでもないのです。両者は「対等なパートナー」だと言えます。この点から、塩屋賢一は『アイメイト』という呼称を生み出しました。「EYE・目・愛、I・私」「MATE=仲間」を組み合わせた「対等なパートナー」を表す造語です。

日本には11の盲導犬育成団体がありますが、塩屋賢一直系の『(公財)アイメイト協会』は、協会出身の犬を「アイメイト」と呼んでいます(他は一般名詞・固有名詞の区別なく「盲導犬」)。ちなみに、英語で「盲導犬」に相当する呼称は「Guide Dog」ですが、アメリカで突出した実績を誇る『The Seeing Eye inc』は、塩屋賢一と同様の考えから、自らが育成した犬たちを『Seeing Eye Dog』と、誇りを込めて呼んでいます。他にも『Leader Dog』といった固有の呼び名があります。
 
こうした事情を踏まえ、この連載でもアイメイト協会出身の犬を『アイメイト』と呼び、その他の育成団体出身の犬と一般名詞に「盲導犬」を用いることとします。

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「アイメイト」と「盲導犬」の違い

 もう一つの大きな誤解は、「盲導犬は皆同じような能力を持っている」というものでしょう。前述の通り、現在、国内だけでも11の育成団体がありますが、「北海道」「関西」「九州」など地域名を冠した団体が多いので、『日本盲導犬協会』のもとに全国各地に地域支部があるのだと誤解している方も結構多いです。実際は、それぞれ独立した別の団体で、歴史、実績、犬の育成法なども異なります。実は、先に書いた「対等なパートナーとしての歩行」も、正確に言えば「盲導犬歩行」ではなく、アイメイトに限った場合の「アイメイト歩行」の説明になります。

たとえば、「ストレート」「ライト」「ブリッジ」などの指示にも、団体によって言葉そのものや意味が違う場合もあります。そうしたディテールの違いだけなら、門外漢の私たちが特に気にすることではないかも知れません。あるいは、言葉だけならどうとでも言えるような理念の違いも、こだわるポイントではないかも知れませんね。でも、「盲導犬歩行の定義が違う」としたらどうでしょう?

 『アイメイト協会』では、「全盲者が晴眼者の同行や白杖の併用なしで犬とだけで単独歩行できる」のがアイメイト歩行だとしています。犬の訓練やアイメイト歩行を希望する人への歩行指導も、それを目指して行い、その条件を満たしたと判断されたペアだけが社会に巣立ちます。一方、他団体では『アイメイト協会』では認めていない「白杖との併用」「全盲ではない視覚障害者の使用」を認めていたり、原則として目が見えている人の同行が必要だったり、歩くことのできる場所に限りがある場合もあります。

これらの違いは、主に盲導犬の歩行の解釈の違いによるものですが、「結果的にそうなっている」といったあいまいなものもあるようです。何が正しく、何が間違っているとは言えません。犬が人間の素晴らしいパートナーでることには変わりはありません。だから、私は単純な優劣をつけたくはありません。しかし、各団体によって「違う」ことは確かですし、その違いは恐らくは事情をよく知らない人が思っているよりもずっと大きいと私は考えています。ですので、一般名詞として盲導犬を一括りに語ると、事実を見誤ることになってしまいます。そのため、この連載では盲導犬を語るというよりは、基本的に『アイメイト』を語る形を取らせていただきたいと思います。

 前述のような日本の不安定な盲導犬事情を鑑み、視覚障害者の歩行の自由度という意味では、「どこへ行っても犬とだけで単独歩行ができる」アイメイト歩行が、最も質が高いと私は考えます。また、それが世界標準だと考えるのが、客観的に妥当だと思います。だから、矛盾を孕んだ言い方ですが、私は意識的に「アイメイト」を選んでこの国の盲導犬事情を取材してきました。

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 塩屋賢一とアスター

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     盲導犬の訓練法を確立するため、目隠しをして町を歩く塩屋賢一

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      国産盲導犬第1号のペアとなった河相洌(かわい・きよし)さんとチャンピイ

戦後すぐに動き出した日本の盲導犬の歴史

今につながる日本の盲導犬の歴史は案外古く、その最初の一歩は終戦直後に遡ります。塩屋賢一は海軍から復員してすぐにメスのジャーマン・シェパード、『アスター』を手に入れ、後にこのアスターやその子の『バルド』『ナナ』と共に独学で盲導犬の育成法を編み出します。賢一は、子供の頃から大の犬好きで、終戦後に念願叶って家庭犬の訓練所を開き、おもに米軍将校ら金持ちの犬を訓練しました。そして、「もっと世の中の役に立つ事をしたい」と、併行して独自に盲導犬訓練の研究を重ねたのです。まだ日本では盲導犬そのものがほとんど知られていない時代。使用を希望する人が出てくるかどうかも分からない中で、自ら目隠しをして生活をし、アスターらと街に出ては体当たりで盲導犬の訓練法や定義を確立していきました。

それから約10年後、噂を聞いて賢一を頼ってきたのが、当時慶応大学の学生だった河相洌(きよし)さんでした。戦時中の重労働がたたって失明し、なんとか愛犬の『チャンピイ』(G.シェパード)を盲導犬にして欲しいと頼んで来たのです。河相さんの父はオーストラリア公使も務めた外交官で、自身もカナダ生まれ、中国大陸育ちの今で言う帰国子女でした。そうした生い立ちから、アメリカやヨーロッパで既に活躍していた盲導犬の存在を子供の頃から知っていたのです。もともと犬が好きだということもあって、失明後、自立を考えた際に、ぜひチャンピイと共に歩きたいと思ったのも自然な成り行きだったのかも知れません。

チャンピイと河相さんは、塩屋賢一の元で訓練・歩行指導を受け、1957年に「国産盲導犬第一号」(この時はまだ『アイメイト』という呼称は生まれていません)ペアとなります。次号は、そこに至る過程と、河相さんとチャンピイの話をもう少し詳しく掘り下げていきたいと思います。

※『WAN』(緑書房)2015年7月号掲載

盲導犬とこの連載について
●盲導犬は「盲人を導く賢い犬」ではなく、「視覚障害者との対等なパートナー」である
●日本には11の独立した盲導犬育成団体があり、それぞれ育成方針や盲導犬歩行の定義が異なる
●「アイメイト」は、(公財)アイメイト協会出身の盲導犬の独自の呼称。この連載はおもにアイメイトに絞って話を進める


内村コースケ/フォトジャーナリスト。新聞記者・同カメラマンを経てフリーに。「犬」や「動物と人間の絆」をメインテーマに、取材・撮影を行い、なかでも「アイメイト」の物語は重要なライフワーク